武神

第2話 地の底の五年

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光も時間もないその地の底で、プンは黙々と――指輪が導く修練を続けていった。その修練は、一人の少年を強くするという程度のものではなかった。指輪は初めからプンの体を、玄境(げんきょう)の力を注がれても崩れぬ器へと造り変えており、日ごとにその中へ化け物じみた内功と感覚を満たしていった。プンが知らなかっただけで、外の江湖の基準で言えば、すでに一世代に一人出るか出ないかの災厄のような高手が、闇の中で育ちつつあったのだ。

そうしてどれほど経った頃だろうか。ある日、プンはふと奇妙なことに気づいた。目を閉じて運気をしていると、自分の体内を流れるその気の道筋が――淡い川の流れのように――目の前にちらちらと見えるのだった。

『これ……見えてるのか? 目を閉じているのに?』

初めは錯覚かと思った。しかし日が経つにつれ、その流れは鮮明になっていった。どこが詰まっていて、どこへ気を流せばよいのかを、プンは今や見ながら知ることができた。

その流れが見えはじめてから、プンの運気はずっと楽になった。詰まった場所をあらかじめ知って道を開いてやるので、あの凄まじかった苦痛も次第に耐えられるものになっていった。天下のいかなる高手が生涯をかけて渇望しながらついに得られぬ資質が、プンにはあまりにも自然な感覚として備わっていった。

さらに不思議なことは別にあった。その流れが見えてから、指輪が教える武功の理が一段と速く頭に入ってくるのだ。動作ひとつにどんな気がどのように乗るのかが目に見えるので、わざわざ何万回と繰り返さずともその妙理を一度で見抜くことができた。一度見た道は忘れられず、一度悟った理はただちに体に刻まれた。才能と呼ぶのも気恥ずかしいほどだった。それはむしろ、武功という文字を目の前に広げて読むことに近かった。

ある日には、プンは自分の丹田の気が一段と深く重くなっているのを感じた。初めてこの洞窟に落ちたときのあの華奢な少年は、もうどこにもいなかった。指を軽く握るだけで石片が粉のように砕け、息を整えれば空洞の塵が穏やかな波のように押し退けられた。プンはその変化を恐ろしいというより、ただ不思議に思うばかりだった。

狩りに出るときには、プンは自分の体が変わったことをより鮮明に感じた。初めて洞窟の外に出たときには、兎一匹捕まえるのも難儀だった。しかしいつの頃からか、プンの目には逃げる山の獣の動きがまるで止まったかのように遅く見えた。手を伸ばせば捕らえ、足を踏み出せば追いついた。力を少し誤って込めるだけで岩がへこみ、軽く跳んだ体が崖の中腹まで舞い上がった。プンはより強くなる術よりも、まず力を殺し、隠す術から学ばねばならなかった。

ある日は切り立った崖を一息に駆け上り、巣の鷹を素手で掴み取りもした。ある日は落ちてくる岩を何気なく受け止めたところ、自分の手のひらより岩のほうが先に砕けるのを見て、しばらく呆然と立ち尽くしもした。そんな自分の姿が、プンは時に恐ろしくもあった。

『僕……このままだと、人でなくなるんじゃないだろうか』

しかしそんな恐れも、指輪が見せてくれる武功の精妙さの前では長く続かなかった。動作ひとつに込められた理を悟るたび、プンは我知らず胸が高鳴った。それは薬草を採っていた頃には知らなかった、まったく別の種類の喜びだった。

地の底の時間は孤独で、また過酷だったが、プンはその中で自分なりの平穏を見出していった。習い、悟り、また習う日々。外の世界も失われた村も次第に遠のいていったが――代わりにプンの内には、何か硬いものが少しずつ積み上がっていた。

そうしてプンは次第に、自分の境遇を受け入れるようになった。指輪はプンを害そうとしていたのではなかった。むしろその昔の主が遺したすべてを、そっくりそのままプンに受け継がせようとしていたのだ。

プンは指輪の意に頷き、その意を理解し、ついにはその意に従った。指輪が見せてくれる武功の理を悟り、その妙理を自分のものとした。そうしてプンは、自分でも知らぬうちに武功を身につけていった。外の江湖の基準で見れば、プンはすでに絶頂や超絶頂の範疇をはるかに超えていた。ただ境地の名を知らず、人を相手に力を競ったことがなく、自分の内なる力がどれほどのものか測る基準がなかっただけだった。

ときおり運気を終えると、プンは懐にしまっておいた書物に記されていた一節を思い出すのだった。『誰よりも自由な人になれ』という、あの一行を。これらすべてを遺した者は一体何者であり、どのような生を生きてこの深い地の底に衣一着だけを残して消えたのだろうか。

そんなある日、プンは書物の最後の頁で読み、それまで忘れていた一節を思い出した。その文句は書き切られぬまま、かすれて途切れている一節だった。

……これがすべてではない。そなたが真に備わったとき――残りが自ら、そなたを訪ねてこよう……。

プンにはその意味を知る術がなかった。ただ両手の二つの指輪をじっと見つめながら、なぜかこれが終わりではないかもしれぬという、おぼろげな予感だけを抱いた。しかしその疑問も、果てしなく続く修練の中に次第に埋もれていった。

ある日、プンはついに一つの招式を初めから終わりまで滞りなく繰り出してみせた。指先から足先まで気と動作が一つに繋がるその瞬間、プンは言い表しようのない充足を感じた。

自ら望んだことではなかったが、その一招式だけはまったく自分のものだという確信が湧いた。『誰よりも自由な人になれ』この一文をプンは繰り返し口ずさんでは思い起こした。自分の体ひとつ思うようにできぬ身で自由とは、プンはその言葉が恨めしくもあった。それでいてなぜか、まさにその言葉が自分をここまで導いてきたような気がした。

光ひと筋差さぬ地の底で、プンはいつの間にか自分の背が一握りほど伸びていることに気づいた。声も一段と太くなっていた。そうして、流れるとも知らぬうちに歳月が流れた。

そうして五年が過ぎた。

すべてを受け入れ、完全に自分のものとしたある日、指輪はもはやプンの体を縛らなくなった。プンはようやく自分の手足が自分の意のままに動くことに気づいた。

プンはゆっくりと立ち上がった。動作ひとつひとつに自ずと力が籠もり、意志が宿った。五年前、悲鳴を上げながら落ちていった薬草採りの少年は、もうそこにはいなかった。

ふとプンは、空洞の片隅にそのまま置かれているあの清らかな衣服へと目を向けた。五年前にはぶかぶかだったはずのその衣が、今はなぜか自分にぴったり合いそうな気がした。プンはすり切れた薬草採りの服を脱ぎ、その衣に着替えた。果たして、まるで初めから自分のものであったかのように体にぴったりと合った。

プンは傍らに置かれた書物も、もう一度懐にしまった。これらすべてを遺した者は一体誰だったのだろうか。気になったが、尋ねる術はなかった。プンは最後に空っぽの空洞を一度見回すと、ゆっくりと身を翻した。

プンは身法を繰り出して軽く地を蹴った。すると体が鳥のように舞い上がり、狭い地の穴を一息に抜け出した。眩い陽光が降り注いだ。

その間にも狩りのために幾度となくこの穴を出入りしてきた。しかしそれは常に、指輪に導かれた歩みに過ぎなかった。自らの意志で、自らの両足でこの光の下に立つのは――五年ぶりに初めてのことだった。

草の匂い、土の匂い、遠くから運ばれてくる風。プンは我知らず目頭が熱くなった。ようやく完全に自分のものとなった体で世界と向き合うという事実が、そのとき初めて胸の奥に実感された。

プンはふと、傍らに立つ大きな岩に向けて軽く拳を突き出してみた。ガキッ――鈍い音とともに、人の背丈ほどの岩が砂のように崩れ落ちた。プンは自分の拳と砕けた岩を交互に見やりながら、しばらく言葉を継げなかった。

プンは再び爪先に力を込めて天へと舞い上がった。山の頂へ向けて跳び上がったと思った瞬間、すでにその頂をはるかに越えていた。

プンは山より高く、より遠くへ飛んだ。何よりも爽快で、何よりも自由だった。足下には幾重にも稜線が広がり、その向こうには一度も見たことのない世界が果てしなく続いていた。

「これが……俺の持ってる力だって?」

自分の意志とは関わりなく過ごした五年だったが、こうして空を切ってみると、その歳月が少しも惜しくはなかった。

ふと母が思い浮かんだ。笑う顔には福が宿るという、あの言葉が。こうして空を飛ぶ自分の姿を見たら、母は何と言っただろうか。プンは風を切りながら、実に久しぶりに声を出して笑った。それからしばらく飛び続け、見知らぬ稜線にふわりと降り立った。

プンは自分の手のひらをじっと見つめた。五年前と同じ手であるのに、なぜかまったく別の手のように思えた。

これまでプンの世界は薬草と山、そして小さな村がすべてだった。しかしこの力を得てこの武功を身につけた今、以前のようには生きられまいということを、プンはおぼろげに悟っていた。

村に帰ろうかとも考えた。ファンウおじさんはまだあの店を守っているだろうか。五年も音沙汰なく消えた自分を、村の人々はまたどう思うだろうか。しばし、プンの心はそちらへ傾いた。

しかしプンの心はすでに別の場所を向いていた。より広い世界を見たかったし、より多くのことを経験してみたかった。先ほど空の上から見下ろしたあの果てしない風景が、しきりにプンを呼んでいた。いつか胸を張れる姿で帰ろう――そう心に決めると、かえって足取りが一段と軽くなった。

だがより広い世界へまっすぐ駆け出す前に、プンには――必ず返さねばならぬ借りが、一つ残っていた。

プンは懐を探り、一輪の花を取り出した。五年前、自分を無底坑へと導いた――まさにあの値の張る花だった。不思議なことにその花は、光ひと筋差さぬ地の底で五年を過ごしたにもかかわらず――萎れる気配ひとつなく、初めのその姿のまま美しく輝いていた。

薬草を見る目が比類なく深まった今、プンは――ようやく、その花の正体を見抜いた。それは、世にめったとない霊薬(れいやく)だった。五年の歳月にも萎れなかったその霊気(れいき)が、まさにその証だった。一輪だけでも、小さな村一つを買ってなお余りある――値をつけがたい宝だった。

振り返ってみれば、この花が自分をあの深い地の底へと導いたからこそ――プンはこのすべての力を得ることができた。見ようによってはこの花こそが、プンの新しい生を開いた――最初の縁だったわけだ。しかしプンは、この貴いものを自分が持つつもりは――なかった。これを受けるにふさわしい人が、別にいた。

◇

その夜、プンは――五年ぶりに、自分が生まれ育ったあの小さな村へと足を向けた。新たに身につけた身法で駆ければ、遠い遠い道もいつの間にか足下にあった。月明かりの下で眠る村は、五年前のままだった。村の入り口の老いた欅も、路地の突き当たりのファンウおじさんの小さな薬草店も。その見慣れた風景に、プンの胸が――じんと、締めつけられた。

プンは、店の前の闇の中に――じっと、立った。夜更けだというのに、店の中には――かすかな灯明が、ともっていた。その灯りの下で、老いたファンウが――独り、帳面を覗き込んでいた。五年の間に、その人の好い顔には――皺が一段と、深くなっていた。

ふと、ファンウが――帳面から目を離し、窓の外――プンが消えたあの山のほうを、長いこと見つめた。そしてそれから、低く――ため息をついた。

「……プンのやつ。生きてさえいるなら、どこにいても――どうか、達者で過ごしていてほしいものだが」

その一言に、プンは――危うく、店の戸を蹴り開けて入るところだった。おじさん、僕はここに生きていますよ、と。しかしプンは――ついに、そうできなかった。黙って五年も消えておいて今さらひょっこり現れたところで、それは――かえって、この老いた恩人の心を乱すことになるかもしれなかった。そして今のプンは、もはや――あの小さな村に留まれる者では、なかった。

プンは、入る代わりに――別のやり方で、自分の心を伝えることにした。やがて店の灯明が消え、ファンウが床に就いた深い夜。プンは、音もなく――店の戸の前へ、近づいた。

プンは、あの貴い霊薬の花を――ファンウが朝になれば真っ先に目にするであろう、戸口の沓脱ぎ石の上に――そっと、置いた。そしてその傍らに、小さな紙を一枚――ともに、置いた。去る前に、自分の心に代える短い文だった。

ファンウおじさんへ。五年前に山で道に迷った、プンです。おじさんのおかげで、僕は元気に生きています。授けてくださった恩は、一瞬たりとも忘れたことがありません。この花が、ささやかなお返しになりますように。どうかいつも、お達者で。いつか胸を張れる姿で、またお訪ねします。

プンは、再び闇の中へ――退いた。そして、その小さな店を――長いこと、目に焼きつけた。母を亡くした幼い自分に、進んで手を差し伸べてくれた人。薬草の見方を教え、食いつなげるようにしてくれた人。その温かな恩がなければ、プンは――あの山に登ることも、この力を得ることも、なかったはずだった。

『……ありがとうございます、おじさん。そして、お元気で』プンは、心の中で――深く、頭を下げた。あえて口に出せなかったその別れの挨拶が、静かな夜気の中へ――そっと、染み入っていった。

それからプンは、未練なく――身を、翻した。背後に遠ざかる村を、二度と振り返らなかった。ひと時代の小さな世界に、静かに――別れを告げたのである。今や、より広い世界が――プンを、待っていた。

◇

五年の歳月が、薬草採りの少年プンをまったく別の人間に変えてしまったのだ。

プンはひとまず一方へ方向を定め、迷いなく駆けた。前に山があろうと川があろうと何の妨げにもならなかった。プンとしては風景を楽しみながらゆっくり走っているつもりだったが、常人の目には追うことすら難しい速さだった。

「だけど……手元に金が一文もないから、何か買って食べたり服を買ったりするには金がいるよな」

力があるとはいえ盗みを働くわけにもいかなかった。幸いプンには薬草を見る目があった。プンは道すがら、折に触れて値の張る薬草を採って路銀をこしらえた。

そんなある日、プンがとある崖の下で珍しい薬草を採っているときだった。ふと、遠く離れた場所からこちらへ近づいてくる見知らぬ気配が感じられた。

プンは薬草を握ったままゆっくりと顔を上げた。五年ぶりに初めて向き合う、人の気配だった。

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この話の終わり 2

ReNovels · 一話ずつ、物語の中へ。

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